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泉美木蘭
2016.7.8 05:55

力強過ぎる痕跡本

なんでこれを買ってしまったのか・・・目がちかちかしてきた・・・。
古書には、往々にして前の持ち主の痕跡が残っているものだけど、
この本は、かなり力強く本を読む人のものだったようで、
ほぼ全ページ、全行が、蛍光カラーペンで塗り潰されているのです。

目が痛い。
電車のなかで開くのが恥ずかしい。
蛍光色に気をとられてペースが落ちる。

ページをめくるにつれて、黄色やオレンジのインクより、
もっと強い色で力強く塗りたくなって、ピンクを手に取った気持ちが
伝わってくる。

そして、力強い蛍光ピンクであまりにもすべてを塗りつぶしすぎて、
どこが重要かさっぱりわからなくなってきたので、
反対色のグリーンを手に取り、さらに重要な部分を目立つよう上塗りした
心理も伝わってくる。

しかもなぜか、私が「これぞ重要」と思う部分は、塗られてなかったりして、
勝手にヤキモキしてしまう。
こんなに重要な部分がいっぱい詰まった本なのに、あっさりと古書店に
売っちゃった感じに、人間っぽさも感じる。
熱しやすく冷めやすい人なのかしら。過ぎたことは忘れるタイプ?

痕跡本に触れると、人それぞれいろんな読書があって面白いなあと思う。

以前、神保町でたまたま買った小説には、最後のページに、感想がわりに、
自作の和歌が書き込まれていた。
「退屈すぎて電車のなかで手から滑り落ちた本だった」
みたいな辛辣な内容だったけど、5.7.5.7.7
でまとめるなんてお洒落な人だ。

私の祖父の遺品の本は、いつどこで入手したものかが表紙裏に万年筆で
きちっと書き込んであって、その丁寧さになつかしさを覚える。
本を読む時も、きちっと座って読んでいたんだろうなと思い浮かべる。

父親の読んでいた本は、わずかに線を引いたり、簡潔なメモを書き留めた
部分はあるが、その量が極めて少ない。

わたしは、著者の言い分に違和感や疑問を持つと、その行の端に
「それおかしいやろ?」「えー? あんただけが感じてることちゃう?」
などと書き込んでしまう癖があるので、古書として出すのは悪いし、
人にも貸せない…。小説は静かに読むけどね。

でもこの蛍光ペンで塗りつぶされている本、勉強になりました。
「グローバリズムが世界を滅ぼす」という対談本です。
2年ぐらい前のものですが、新自由主義、グローバリズム、EUの過ち
などが語られています。

泉美木蘭

昭和52年、三重県生まれ。近畿大学文芸学部卒業後、起業するもたちまち人生袋小路。紆余曲折あって物書きに。小説『会社ごっこ』(太田出版)『オンナ部』(バジリコ)『エム女の手帖』(幻冬舎)『AiLARA「ナジャ」と「アイララ」の半世紀』(Echell-1)等。創作朗読「もくれん座」主宰『ヤマトタケル物語』『あわてんぼ!』『瓶の中の男』等。『小林よしのりライジング』にて社会時評『泉美木蘭のトンデモ見聞録』、幻冬舎Plusにて『オオカミ少女に気をつけろ!~欲望と世論とフェイクニュース』を連載中。東洋経済オンラインでも定期的に記事を執筆している。
TOKYO MX『モーニングCROSS』コメンテーター。
趣味は合気道とサルサ、ラテンDJ。

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